こんなキッチンに出かけてみたい

 怪獣絵本に続いてセンダック作品で夢中になったのが、『まよなかのだいどころ』。息子が好きそうと思っていたら、案の定、彼も夢中になった。何がいいのかといえば、真夜中の冒険だろう。「思う存分」という感覚が子どもを魅了するのだと思う。パン生地にこねられたり、空を飛んだり、ミルクの中で泳いだり、主人公のミッキーは、夜の不思議なキッチンで気持ちよさそうに遊んでいる。キッチンの街の風景や、おもしろいパン屋のおじさんたち、それに、原書にも劣らないほどよくできている邦訳のリズムもすごくいい。
 一時期、真夜中のお菓子作りに熱中したことがある。誰もいない、し〜んと静まりかえった夜、かちゃかちゃ音を立て、生地をこね、バニラの甘い香りを楽しんで……、時間が過ぎる。そのとき、頭に巡らしていたのは、ミッキーのこのキッチンの光景。焼きあがったお菓子の芳ばしさを独り占めすることも、満ちたりた気持ちにつながっていた。たいていはラッピングして贈るものを焼いていたわけだけど、朝起きて、きれいにリボンとカードを付けた包みを見るのも好きだったなあ。究極の自己満足。(asukab)

まよなかのだいどころ

まよなかのだいどころ