緑の船は、思い出の中に…お気に入り船の絵本4部作

 海岸や港を訪れていなくても、船長になったり水夫になったり、ごっこ遊びの楽しさは留まるところを知らないもの。そんな無限のイマジネーションについて、この『みどりの船 (あかねせかいの本)』は豊かに語っている。
 田舎で過ごす夏休み――。姉弟が訪れた緑深い庭園には、煙突もマストもある、船をかたどった植木の茂みがあった。ここから始まる航海の冒険は、子どもの心も大人の心もくすぐり、みごととしか言いようがない。緑茂った船で7つの海を渡るのだけれど、イマジネーションとはこういうものというカタログを見ているかのようなワクワク感がある。同時に、夏の日の思い出を、これほど深く満ちたりた優しさで包める絵本ってないのではとも。冒険の興奮はもちろんのこと、日々の楽しさと、懐かしさならではの淋しさと……、じんわり心に染み入る作品なのだ。
 描かれる対象の深さを考えると、中学生、高校生にこそいいのでは。相反するもの――躍動と静寂、明るさと悲しさを描いた、希代の絵本。シンプルな題材で巧みに物語を描くスタイルが、英国の絵本らしいと思った。(asukab)

みどりの船 (あかねせかいの本)

みどりの船 (あかねせかいの本)