ぼくとくまさん

 シュルヴィッツのデビュー作『ぼくとくまさん』を娘と読む。彼女はクラスで原書『The Moon in My Room』を読んだそうで、くまさんがどこに隠れているのかそうっと教えてくれた。
 絵本に使用される色は、赤、緑、黒の3色のみ。でも、余白が生かされ着色がほんのり薄めなので、ふんわりやさしいベールにおおわれる印象を受ける。自然のめぐりとともに時間が過ぎた、幼い日の追憶がよみがえってきた。
 小さな男の子が部屋にひとり。彼の部屋には、なんでもある。「じぶんだけの おひさまも、じぶんだけの おつきさまも、じぶんだけの おほしさまも、きや はなが そだつ おにわも、やまや たにも、 それに、ともだちも たくさん います。」――さらりと、でも構成は熟考されて描かれた細い線が、ページごとに吹き抜ける風と淡い射光を伝えてくれるかのよう。友だちの中には大切なくまさんがいるのだけれど、くまさんの姿が見えない。くまさんは、どこに行ったのだろう。
 ファンタジーから夜の眠りに誘う、穏やかな作品である。原書のタイトルは「月」がメインなのだけど、「くま」でも「月」でも安らかに眠りに誘うはたらきに変わりはなかった。
 ひとつ気づいたことは、月にかけられた「はしご」の光景。エリック・カールの『パパ、お月さまとって!』(原書『Papa, Please Get the Moon for Me (World of Eric Carle)』1991年)と同じなのだ。シュルヴィッツの初版が1963年だから、ここからインスピレーションを得たのかもしれないと一瞬どきっとした。あるいは、よくあるイマジネーションの風景とも受け取れるか。
 娘は作中の山や谷に、がまくんとかえるくんが住んでいると言っていた。こういうつぶやき、あとどのくらい続くのだろう。考えると、ふと、さびしくなったりする。(asukab)

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