木蘭歌

 花木蘭とは、ディズニー映画にもなったムーランのこと。たまたま隣家でビデオを見せてもらい、娘が大ファンになった。そんなことを思い出し、息子と『Song of Mu Lan』を読む。個人的にこの絵本、大好きなのだ。中国では教科書に掲載されるほどの有名な故事という。絵本には作者の父親直筆による漢文が紹介され、英文のほうは原文の味わいを生かした簡潔な詩として表現されている。
 年老いた父に代わり、花木蘭が北域の戦地に赴いて10数年。勇壮に戦った功労を称えられた際、天子の前で告げた唯一の願いは帰郷のひとことだった。父母弟妹との再会を果たし、真の姿を見せる木蘭……。
 あまりにも劇的な実話である。いろんな思いが駆け巡り、ひとつひとつ消化するのにそれぞれ時間がかかりそうだ。両親(特に父)への慕情、戦地へ赴く決意、戦場での過酷な日々、望郷の念、自己回帰――。
 詩自体は、隋統一以前の南北朝時代(AD420-589年)に生まれた。書物としては唐時代から記録があり、本作品に掲載された詩は宋-明朝時代のものだそうだ。何という歴史の重みだろう。こういう時の流れがあるから、木蘭の存在を知るだけで永遠の中に佇むような気持ちになるのだろう。
 そこにきて屏風絵のようなイラストと手書きの漢文。何とか書き下し文にして読みたいと思いながら、その目的未だ果たせず。表紙は裏表紙と続く絵巻の趣向で、作中それぞれの場面がすべてこの横長1巻の中に収められている。何人もの木蘭があちらこちらに描かれていて、木蘭歌の全貌が見渡せるのだ。壮観。もちろん悠久の時は、しっとりと落ち着いた各ページからも流れ出ている。(asukab)

Song of Mu Lan

Song of Mu Lan