Nuts ―Noten―

 季節はずれなのだが、かわいらしい絵本に出会った。タイトルは、『Nuts』。オランダの絵本である。
 木の実集めの秋を迎え、ねずみは大はりきり。さっそく首にスカーフを巻き、おっきなポケットのついた赤いコートを着て、畑と農場と草地を越えたところに立っているくるみの木に向かう。ところが、なにやら雲行きが怪しくなってきた。「あらしが くるよ、いえに おかえり!」――かもめが飛んできても、風の音でねずみには聞こえない。「ここから おどき! ひかれちゃうよ」――うさぎが叫んでも、トラクターの音で聞こえない。「きをつけて! そこに いぬがいるよ!」――ひつじたちが鳴いても、犬のほえ声で聞こえない。危険を乗り越え、やっとたどり着いたくるみの木の根元で、ねずみは一眠り……。
 おお!っと山場を迎え、最後はあっさり。でも、思わず自然の恵みに感謝したくなるお話だった。たとえば、新約聖書「マタイによる福音書」第6章26節のように。シナモン色した秋の気配が絵本全体に満ちていて、これ一冊抱えているだけで「秋」を手中に収めた気持ちになれる。イラストの色合いと、ねずみのおっとりとした行動が、収穫期の充実感を与えてくれるからだろう。秋の夜長のお休み前に、ぴったりの絵本だと思う。
 これから夏というのに、やはりだいぶ季節はずれ。(asukab)
amazon:Paula Gerritsen

  • わたしの手にした作品には、表紙オレンジ色のタイトル枠がなかった

Nuts

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