The Little Red Fish 本の森で赤い魚を追う

 水曜日。息子は野球の練習後、アート教室に向かう。その間、娘といっしょに立ち寄った書店ですてきな絵本に出会った。
 宝物のように大切にされ、世に生まれたのではないか、というのが『The Little Red Fish』を手にしたときの第一印象だった。赤い布装丁、セピア色を基調に丁寧に描かれたイラスト、耳にしたことのない作者の名前はアジア系だ。
 ある日、男の子はおじいさんの図書館に連れて行ってもらう。大好きな赤い魚を金魚鉢の中に携えて。薄暗い書庫部屋はまるで本の森のようだった。こっくり、こっくり――眠くなり目を覚ましてみると、鉢で泳いでいたはずの魚が消えていた。
 この後、男の子は開いていた絵本の中に落ちてしまう。人物の描かれ方が、なんとなく酒井駒子さん、あるいはちょっぴり少女漫画の影響を受けた風である。背景の書庫風景も、言ってみれば漫画家先生による水彩画のよう。でもそれ故に現実からファンタジーの世界に移行する描写は、アジアというか日本人の心にしっとり染み入るタイプの展開だ。ペン画と水彩がやさしく溶け合い、柔らかい茶系の世界に魚の赤がほどよく目立つ。
 じんわり一人で味わった後、作者紹介を読むと、卒業制作で取り組んだ絵本であることがわかった。納得。構想を練り、気持ちを込めて作り上げたことが伝わる抒情性だもの。ゆっくり時の流れる空間を、ノスタルジーが包み込んでいた。(asukab)
amazon:Taeeun Yoo

  • カバーは一面真っ赤なのだけど、なぜかほんのり赤が印象に残る絵本

The Little Red Fish

The Little Red Fish