The Longest Season カル・リプケンJrが振り返る88年オリオールズ開幕21連敗

 今年の殿堂入り選手は、カル・リプケンJr(元オリオールズ)とトニー・グウィン(元パドレス)だ。2632試合連続出場のメジャー記録を持つ鉄人と、首位打者8回のナ・リーグタイ記録*1を持つ安打製造機には共通点が多い。共に選手生活を一球団で過ごし、2001年に現役引退を表明。シアトルが開催地となった同年のオールスターゲームで、コミッショナーより歴史的偉業達成賞を受賞した。2人のイラストが表紙に描かれた今年の殿堂イヤーブックを手にすると、ニューヨーク州クーパーズタウンで7月29日に開かれる授賞式が待ちきれなくなってくる。どんなスピーチを披露するのだろう。今年ばかりは、どこかに録音するなり記載するなりして残しておきたい気持ちが湧き上がる。
 2001年セーフコフィールドでの球宴は、個人的に思い出深い。この日7月10日が誕生日で、リプケンJrのホームランが自分への贈り物のように思えたのだっけ。A・ロッドがリプケンに遊撃のポジションを譲ったことに感動し、イチローと2001年マリナーズの勢いも手伝って、本当にお祭り気分の夕べだった。
 別々の場所でそれぞれグウェイン、リプケンを見かけたことがあるけれど、気さくなグウェインと対照的にリプケンは近寄りがたい雰囲気を放っていた。偉業を成し遂げる人物には自分の世界があり、日常とかけ離れたところに存在しているのだととっさに感じ取った。1982年5月30日から1998年9月20日まで、一日も休むことなく出場し続けた事実。しかも最後はスランプの自分を省み、新たな出発を求めて自ら監督に休場を申し出たというのだから。16年間の精神鍛錬や体調管理を考えると、「リプケン式」という言葉が生まれるのも自然なことに思えた。
 それで、リプケンJr作の絵本。『The Longest Season』を手にしたとき、これは誠心誠意を込めてレビューを書きたい絵本だと感じた。リプケンJr自身が赤裸々に独白する1988年のできごとには、こちらまで胸が痛くなるほどの辛い時間が流れている。
 この年、オリオールズリプケンSrを新監督に、息子2人(ビリー、リプケンJr)がプレーするメジャーでもかつてなかった親子チーム誕生に湧いていた。しかし、いざシーズンが開幕すると連敗が続き、リプケンSrは6日目で解雇――このときリプケンJrは、メジャー生活で唯一オリオールズを去りたい気持ちに襲われたそうだ。ロビンソン新監督が後を引き継いでも負けは続き、ついには全米で注目を浴びるほどになる。負けが込んでいるときのチーム状態がどんなものか。この精神状態は、実際味わってみないとわからないものだろう。リプケンJrは一日ごと試合を振り返りながら、苦く重い21連敗を淡々と語っていく。ここはなんというか、語り口調のテンポが絶妙なので臨場感にあふれ、思わず時を越えて当時にワープしているような感覚に包まれた。
 88年オリオールズは、不名誉な開幕メジャー連敗記録*2を残した。しかし翌年89年、チームは生まれ変わった。同じ顔ぶれでプレイオフ進出を最終戦までブルージェイズと争ったのだ。
 新人時代のMVPなど栄冠を勝ち得た後に味わった、個人の力ではどうにもできない挫折感。グレートからグレーテストに進化した理由は、ここにあるんじゃないかな。カル・リプケンJrの実績と人気と人間性と――。誰もが尊敬せずにいられない理由が、この絵本の中に詰まっている。(asukab)
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  • MLBファン必読の絵本。内容が濃い

The Longest Season

The Longest Season

*1:並んだのは、あのホーナス・ワーグナー

*2:メジャー連敗記録は61年フィリーズの23連敗