くまとやまねこ

 丁寧に真心を込めて紡いだ絵本は、それだけで心に染み入ってきます。時間こそが唯一、死の傷心を癒し、心の新生に向かわせてくれる存在なのだ、と『くまとやまねこ』を読み、あらためて思い返しました。死に直面し、乗り越えていくくまの心情が丹念に描かれる、それだけで普遍のメッセージが伝わります。
 絵本は、厚紙のような粗い質感を出した薄い茶ねずみが地色。そこに木炭素描風のイラストがほんのりと浮かび、静かな時間の流れを映し出します。後半には、ぱちんとはじける明るさを湛えたチェリーピンクが差し色として灯され、希望の調べを運んでいるかのようでした。ことりのリボンの色にもピンクが灯り、くまの心模様が見えた気がします。
 未来に直面するであろう死を思うとき、幾度となくこの絵本に力を貸してもらう予感がしました。(asukab)
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くまとやまねこ

くまとやまねこ