The Apple Pie that Papa Baked パパがやいたアップルパイ

 甘酸っぱい香りのアップルパイは、大地の恵みとパパの愛情がたっぷり焼き込まれた一品。自然のいつくしみに感謝しながら、ひとくち、ふたくち。りんごの果肉色のような表紙の色調を目にするだけで、すでにアップルパイが食べたくなっているのだから、ページをめくればもう降参だ。今すぐパイを焼きたい衝動に駆られている。そうして、一個のリンゴ、一本のリンゴの木を見つめる目が、広い地球を見つめはじめる。
 美味しいパイには、りんごの木、枝、根っこ、雨、雲、空、太陽、自然界すべての精霊が宿っている。『The Apple Pie That Papa Baked』は、アップルパイを取り巻く森羅万象を、耳に心地よい「つみあげ歌」の中で、繰りかえし賛歌するのである。
 詩もいいし、絵もことばに溶け込んで、一心同体になじんでいる。もっと言ってしまえば、絵本ごとそのままアップルパイのよう。それほど、誰からも愛されるアップルパイ的要素からなる絵本ということなのだ。
 ジョナサン・ビーン*1って、こういう絵も手がけるんだ――。絵本を手にして最初に抱いた印象は、「意外」の一言だった。ところが、本作品は彼の画家デビュー作だと後で知る。しかも、バージニア・リー・バートンとワンダ・ガァグに強く影響を受けて取り組んだイラストとのことで、なるほど。黒、うす茶、赤の三色使い、曲がりくねった稜線や点描の打ち方など、その特徴が濃く見て取れた。ペンシルベニアの田園風景が、昔風のムラのある印字とともに表されると、戦前の絵本と言われても見分けがつかない。
 日本語版は『パパがやいたアップルパイ』で、谷川俊太郎さんが訳されている。きっと、『これはのみのぴこ』みたいな感じかしら。日本語でも極上のりんごパイを味わわなくちゃ。
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The Apple Pie That Papa Baked

The Apple Pie That Papa Baked