DAD, JACKIE, and ME ジャッキー・ロビンソンと父さん

 息子のチームが、第4戦で敗退。リトル・リーグ(メジャー)が終った。0−5で完敗。チーム安打わずか3本の内、息子が1本貢献できたことが唯一の慰めかな。サマーボールに申し込んであるので、今度はジュニアレベルでの試合が来週から始まる。ベースボール三昧の日々は、まだ続くのである。
 帰路、FIFAワールドカップ決勝でのジダンの頭突きが話題に上った。人種・民族に関わる中傷は、誰だって憤慨するものだ。ましてやそこに家族の存在が絡んできたら、怒りを止められないのが人間の正直な姿じゃないか。わたしはジダンの行動は筋の通った結果に至ったと納得した。しかし、主人はどんな状況下でも非暴力を支持するとして、ジャッキー・ロビンソンの示した寛大さを挙げた。罵倒・罵声だけでなく、物を投げられ、唾を吐かれ、試合中、不当にスパイクされるなど身体が危険な目にさらされても自分のプレーで存在を表した静かな闘志をたたえた。
 こうして夜、息子と読んだ絵本が『Dad, Jackie, and Me』だった。
 ジャッキー・ロビンソン入団一年目の1947年*1、ブルックリン・ドジャーズの本拠地エベットフィールドは湧き立っていた。今まで野球にこれっぽっちも興味を示さなかった父親が観戦チケットを買って帰り、主人公の少年は驚くと同時に大喜びする。新人ジャッキーの活躍と奮闘を応援しに、父子はシーズンを通して球場に足を運んだ。
 少年は作者自身、そして父親は聾唖者である。ひとつひとつのやり取りが実話をベースにしているだけに、エピソードはどれも強く胸を打つ。当時の社会状況がどんなものだったのか、わかっていても繰り返しページをめくることにこの絵本の意義があると思った。見返しにある新聞の切り抜きは作中にも触れられているとおり、作者の父親が当時切り抜いて集めたもの。巻末に父親の思い出が記されていて、ほろりとさせられる。自分や聾唖のメジャーリーガー、ウィリアム・エルズワース・ホイのハンディをジャッキーの社会的地位と重ね、世の中の偏見を繰り返し語ったことなど、情景を思い浮かべるだけで読む声が詰まった。  
 ジャッキー・ロビンソンの絵本は多くあるけれど、一冊選ぶのなら絶対にこの作品。少年と父親のやりとりがぬくもりに満ちていて、何度読んでも涙がぽろり。ジャッキーの存在と合わせて、温かく特別な作風を生み出している。写実的な水彩画も当時の様子を淡々と伝え、それだけで美しい。(asukab)
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Dad, Jackie, and Me

Dad, Jackie, and Me