Puff, the Magic Dragon 子どもの成長を見つめるテーマソング

 子どもたちが巣立っていくとき、わたしの中ではこの歌がBGMとして流れているんだろうなあと感じた絵本です。ピーター、ポール&マリーの人気フォークソングをそのまま、今度はピーター&彼の娘さんが歌いCD付きの絵本にしたのが『Puff, the Magic Dragon』です。
 ドラゴンのパフは、ホナリー国の海辺に住んでいます。子どもしか住めないこのファンタジーランドにある日、ジャッキーぼうやがやってきました。冒険を繰り返すジャッキーぼうやとパフ。甘く、やさしい風に吹かれながら、時間は夢のように流れていきます。でも、それは永遠のことではありませんでした。
 大人になるってどういうことだったのか、自分の記憶にはまったく残っていません。ただ知らないうちに大人と呼ばれるようになり、なんとなくそんな顔をして毎日を送っていた――そんな気がしています。だからきっとジャッキーぼうやもいつの間にか大人と呼ばれ、ホナリー国から足が遠のき、記憶の片隅にうっすらと、穏やかな陽に包まれた海辺の景色とパフの笑顔が残るだけとなったのかもしれません。
 ジャッキーが自分の子ども性を取り戻し、再びファンタジーランドに足を踏み入れる最後がすてきです。大人として日々を過ごし、ある日、小さな子どもに出会い――それは多くの場合、親として――、子ども時代の夢、憧れ、そこにしか流れていない時間を感受して、パフと再会するのでした。このとき初めて、仮面の大人は真の大人になったと言えるのかもしれません。
 子どもから大人への移行期は、親としてみると一抹の寂しさを抱く日々になりそうです。でも、息子と娘がジャッキーぼうやのように再びホナリー国へ戻り、パフと出会えることを願って、見守っていきましょう。
 アクリルで描かれたシュールなイラストは、海風を描く中間色アクア・グリーンが印象的です。ふんわりとやわらかな愛情に包まれた子ども時代を象徴するのにぴったりで、見ているほうも夢心地でした。フランス人画家によるホナリー国には、ヨーロッパの香りも漂っています。歌詞にもあるとおり、秋口に読むのがぴったりの絵本です。(asukab)
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  • 歌声を聴きながらページをめくると、思わず涙。これは世代にわたって、親なら誰もが味わうハッピーなせつなさじゃないかな

Puff, the Magic Dragon

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