Tiny Little Fly ちっちゃなハエくん きょうはみんなで名作だ! 

 おや、おや、 ちっちゃなハエくんがとんできたよ! ゾウはウインクをして「つかまえてやるぞう!」――。のっし! どしん! のっし! でも、ハエくんはにげていく。おや、おや、 ちっちゃなハエくんがとんできたよ! カバはウインクをして「つかまえてやるわい!」――。ごろり! びちゃ! ごろり! でも、ハエくんはにげていく。おや、おや、 ちっちゃなハエくんがとんできたよ! トラはウインクをして「つかまえてやるわよ!」――。ひゅう! ぱしっ! ひゅう! でも、ハエくんはにげていく。……さてさて、最後には……。  
 "Tiny Little Fly"の作者は、マイケル・ローゼン。ただならぬ絵本とは、十分わかっていた。表紙の風体からも、もちろん想像するにたやすかった。でも、でも、これほどまでに純度の高い作品が生まれるとは! 設定、リズムが愉快だし、アートとして堪能できるイラストもすごくいい。
 第一線に立つ詩人と新進気鋭のイラストレーターのコラボレーションは、期待をうらぎらない最高級のできばえだ。というか、ローゼンの文章に、これほどの絵を提供できた画家の力が単純にすばらしい。版画の趣向と鉛筆の描線、そこに不透明水彩の分厚い質感がデジタル加工の風合いでうまく重ねられている。塗りっぱなしのラフな筆運びが、野生味あふれるキャラクターを駆り立てて味わい深く、同時に洒落た感じもするのである。ジャケット折り返しに"Mr. Peek and the Misunderstanding at the Zoo"で「ボローニャ・ラガツイ賞」受賞とあり、納得した。やっぱりねえ、このイラストならば。大きな動物たちと対照的なハエくんの表情がひじょうにかわいい。
 場面は"We're Going on a Bear Hunt"『きょうはみんなでクマがりだ (評論社の児童図書館・絵本の部屋)』より少ないけれど、真ん中の観音開きのしかけが迫力満点。「くまがり絵本」を越えそうかな。そんな名作の誕生と宣言したくなってしまう。

Tiny Little Fly

Tiny Little Fly

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Fiesta Babies メキシコのあかちゃんたち

 リズムがよくて、カラフルで。ぬくもりを感じさせる手作り感、そして民族への誇りが"Fiesta Babies"の魅力。ぴちぴち明るくはじける赤ちゃんたちが、たのしくお祭りを盛り上げる。フィエスタ、シエスタ……「あ音」でおわる語感だけで、元気になれそう。

Fiesta Babies

Fiesta Babies

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Little White Rabbits イマジネーションであそぼうよの絵本

 ぴょん、ぴょん、ぴょん――。元気な白うさぎが草むらをかけぬけて、「みどりになるって、どんなかな…」。森の木立ちをとおりすぎ、「せいたかのっぽになるって、どんなかな…」。岩をとびこえて、「うごかないって、どんなかな…」。
 好奇心旺盛なイマジネーションは、次の見開きでどんなものか示される。ここは作者の遊びごころの反映。問いかけだけですまさなかったところがおもしろいのだけれど、個人的には読者が想像して楽しむほうが好き。
 春らしいパステルカラーがかわいらしい。想像するページではなんとなく、"The Runaway Bunny"『ぼくにげちゃうよ (海外秀作絵本)』を想起した。

Little White Rabbit

Little White Rabbit

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Rubia and the Three Osos スペイン語でたのしい3びきのくま

 "Rubia and the Three Osos"は、誰もが知っているお話をとおしてスペイン語の単語が学べる絵本。よく知られているからこそ、作中の「くま」「スープ」「パパ」「ママ」「ぼうや」「熱い」「冷たい」などの単語を外国語にすりかえても、お話はちゃんと伝わるのである。
 3びきのくまがスペイン語のひびきになると、これまたおだやかな森のイメージががらりと変わって見えるからおもしろい。なんだか、お祭りが始まりそうで、うきうき、春にぴったりだ。スウィートの明るいイラストも一役買っている。
 いちもくさんに逃げていったRubiaちゃんがその後、どうしたか。帰結のなりゆきを喜ぶ読者も多いだろう。

Rubia and the Three Osos

Rubia and the Three Osos

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Brownie Groundhog and the February Fox グラウンドホッグ・デーのものがたり

 春待つ米国人がけっこう気にしている「グラウンドホッグ・デー」。わたしは渡米するまでこの子どものおまじないのような「ならわし」のことを知らず、春を待つ占いについてほほえましく思ったものだった。リーダーズ英和辞典には、次のように定義されている。

Groundhog('s) Day【米】グラウンドホッグデー《聖燭節(Candlemeas)の2月2日、所により14日;春の到来を占う日で、晴天ならば冬が続き、曇天ならば春が近いと知る》。[この日ウッドチャック(groundhog)が穴を出て、自分の影を見ればさらに6週間の冬ごもりに引き返すとの伝説から;cf.啓蟄(けいちつ)]

 "Brownie Groundhog and the February Fox"は、そんなあるグラウンドホッグデーを描いたもので、季節的な意味合いを理解しているとさらに興味が湧くお話だ。
 しかしながら、この絵本にはもうひとつ作外に、自分にとって驚きのエピソードがあった。
 スペイン人イラストレーター、カーメン・セゴビアの作品は、絵本手帖でも以前、紹介したことがある。彼女のイラストは、ウェブ上のポートフォリオを見てもらえばわかるように、抑えた色合いを基調にした落ち着いた画風が特徴だ。米国デビュー作"The China Doll"もやはり、「絵」が気になって手にした絵本だった。
桃の節句に - 絵本手帖
 2冊目の作品を手にして、ジャケット折り返しを読むと、おもしろい事実が明かされていた。
 雪などめったに降らないバルセロナ滞在のセゴビアはある冬、雪が降らないかと願いながらグラウンドホッグのスケッチを描いた。それをもとにした絵画がボローニャ国際絵本原画展に選ばれ、目にした米国編集者が断固として絵本化を決めたという。つまり、本作は「絵」が先にあり、お話が後から生まれた絵本である。物語にするまでのこのプロセスには、会話をとおしたキャラクターの構築、プロットなどかなり高度な技術が要されるが、ベテラン編集者であればそういうスキルも持ち合わせているのである。
 そう知ってしまうと、思わず再読してみたい気持ちが高まってくる。さしでがましくも、わたしが創作の立場に置かれたなら……などと想像しながら。
 すでに当日は過ぎてしまったけれど、今年の占いはどうだったのだろう。シアトルは現在、氷点下。弥生3月を目前にして、冬に逆戻りの週末だった。

Brownie Groundhog and the February Fox

Brownie Groundhog and the February Fox

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2011年イースター絵本のリストを作りました

 今年の復活祭は4月24日。数は少ないのですが、リストをあげてみました。虫干し的な意味もあり、埋もれていた絵本を引っ張り出してきました。
 小見出し、あるいは◆をクリックすると、レビューに飛びます。

good egg かわいいたまごの絵本 - 絵本手帖

たまごと遊ぶ、きれいで楽しいしかけ絵本。(英語)
Good Egg


Duck! Rabbit! イースターに遊んでみたい絵本 - 絵本手帖

春らしい動物2匹が、あーだ、こーだと議論中(英語)
Duck! Rabbit!


My Garden わたしのお庭は、不思議なお庭 - 絵本手帖

こんなお庭でイースターがお祝いできたらいいな(英語)
My Garden

The Easter Egg Artists エイドリアン・アダムスのイースター絵本 - 絵本手帖

たのしいイースターのたまご作りを描く(英語古書)
The Easter Egg Artists (Aladdin Books)


四季の絵本手帖『チキン・サンデー』 - 絵本手帖

イースターの卵作りを背景に、出会い、勇気、思いやり、愛を描く秀作。どちらかと言えば小学高学年以上向けの絵本。
チキン・サンデー

イースターってなあに - 絵本手帖

イースターのいわれを伝える、ベルギーの小さな子ども向け絵本。
イースターってなあに

きんのたまごのほん - 絵本手帖

可愛いうさぎさんと、きれいな卵を見ているだけで幸せに包まれます。
きんのたまごのほん

ふわふわしっぽと小さな金のくつ - 絵本手帖

肝っ玉ウサギ母さんを描く絵本。イースター・バニーとなり大活躍します。
ふわふわしっぽと小さな金のくつ

うさぎの だいじな みつけもの - 絵本手帖

イースター」を探しに行くうさぎさんのお話。結婚のお祝いにもいいと思います。
うさぎのだいじなみつけもの

ターシャ・チューダーのイースター絵本(レビューなし)

かわいい動物たちと春の自然に囲まれた喜びが描かれます。
イースターのおはなし―ターシャ・テューダー・クラシックコレクション (ターシャ・テューダークラシックコレクション)

カーニバルのおくりもの - 絵本手帖

大斎節(レント)に入る前のカーニバルを舞台に、衣装を巡る子どもたちのやりとりを描く絵本。復活祭のいわれも同時に知ることができます。カラフルなイラストがすてき。でも書影が邦訳、原書ともにないのですね。

カップケーキのバニラくん

 "Cupcake"の邦訳『カップケーキのバニラくん』。
 今レビューを読みかえしてみると、バレンタインにもいいと書いていたので、あわててバレンタイン絵本リストに加える。
 この色合いを見ると、いつもアッパー・ミドルの女の子ワールドを連想する。何というか、マーシャ・スチュアート的なのだ。
 邦訳の書影がないので、原書のほうで。
Cupcake カップケーキとキャンドルのスウィートなお話 - 絵本手帖

Cupcake

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