fairy tales

April and Esme Tooth Fairies リアルな妖精たち

"April and Esme Tooth Fairies"は、非常にボブ・グラハムらしい絵本だった。妖精のおとぎ話を美化せず、日本的に表現すれば「主人公を下町の人情あふれる情景とともに描く」いつもの手法が冴えていた。 主人公は歯の妖精エイプリルとエスミの姉妹。この歯の…

Me and You アンソニー・ブラウンの3びきのくま

"Me and You"を読み、久しぶりに「アンソニー・ブラウンの絵本」にお目にかかれた気がした。家族愛を描く傑作としては、『すきですゴリラ (あかねせかいの本 (12))』以来と断言してしまいたいぐらい。それこそ、英国の絵本の魅力がぎゅうぎゅうと詰った秀作…

The Odious Ogre 人食い巨人と少女のお話

"The Odious Ogre"は、現代人向けの寓話と言うべきか。世にも恐ろしい人食い巨人が愛らしい少女に出会い、価値観の違いに仰天するお話。 人食い巨人は殺戮を繰り返し人々を戦慄させることに快感を覚えていた。ところがある日、極悪非道の巨人をまったく脅威…

Clever Jack Takes the Cake おいしい、たのしい、ドキドキ、ハラハラ

手作りケーキをもとにして、いろいろなお話の登場人物が出てきて、暗〜い森やお姫さまの住むお城が舞台になって、"Clever Jack Takes the Cake"は久々に、「次はどうなるのかなあ?」と思い巡る子どもの気持ちになって楽しんだ絵本だった。イラストのくすん…

Mirror Mirror おとぎ話を上から下から

なんと愉快で機知に飛んだ詩群だろう! ふつう詩は上の行から読んでいくものだけれども、それを下の行から読み始めたらどうなるのか。おとぎ話をテーマにした詩集絵本"Mirror Mirror: A Book of Reverso Poems"は、一見単純な、けれども斬新な発想を昇華させ…

Goldilocks and the Three Bears おうちとインテリアに注目

エマ・チチェスター・クラークの3びきのくま絵本"Goldilocks and the Three Bears"。まず、くま一家のおうちだけれども、木々に囲まれているとは言え、階段を上った小高い丘にじゃじゃーんと佇むちょっと豪華な2階建て。ここであきらかに今までの3びきと…

Yummy Eight Favorite Fairy Tales たのし、かわいや、おとぎばなし

"Yummy: Eight Favorite Fairy Tales"は、ルーシー・カズンズによるおとぎ話が「おいしそう〜」に8話つまった絵本です。これはもう、英語でも、日本語でも、とにかく一家に一冊の必読書!と宣言してしまいましょう。おなじみのたのしいイラストに、わかりや…

3びきのくま

ワッツの『3びきのくま』のクマさん一家を見て、なんとなく日本の洋風絵本で見かけるようなクマさんたちだなあと印象を抱いた。ちょこんとした目の描き方が、そう思わせるのかもしれない。原書は、1984年に出版。 それにしても、森の自然の描き方にはうっと…

ヘンゼルとグレーテル くらべっこ

色を堪能する絵本として引かれているのが、バーナデット・ワッツの作品だ。最近のやさしいパステル調も魅力だが、不透明水彩で心の闇を主張する昔の画風も捨てがたい。 岩波書店から出ている1973年版の『ヘンゼルとグレーテル (大型絵本)』では、ワッツの特…

かえるごようじん

久々に娘と大爆笑。とびきり愉快なひとときを提供してくれた絵本は、『かえるごようじん』(原書"Beware of the Frog")です。 「あるところに、おばあさんが ひとり おりました。おばあさんは、くらくて ふかくて とんでもなく おそろしい、もりの はずれに …

Hurry Up and Slow Down ウサギとカメのかわいらしいお話

冬の翌日は、ふたたび春の一日でした。絵本のページをめくるように、春、冬、春の順番で絵巻を見せてもらったようで、自然の気まぐれにただただ目を瞬かせるばかり。昨日の銀世界は夢のように消え去り、さわやかな青空の下、光る風が吹き抜けていきます。 そ…

森の中へ

うす紫のクロッカスが顔をのぞかせ、光る空気はすっかり春。ここ数日、明るい風景にウキウキと胸を躍らせていましたが、今朝は突然の雪景色です。あまりの変貌ぶりに、まるでおとぎ話の世界に舞い込んだかのような錯覚を抱きました。 (夕べ、ちらほら粉雪が…

Hansel and Gretel 魔女の内面を描く心理童話

表紙のキラキラ加工が砂糖菓子のようで、子どもが喜びそう。しかもイラストはブルーカンガルー・シリーズ*1のエマ・チチェスター・クラークとあり、これはよい感じ……と吸い込まれるようにして手にした『Hansel and Gretel』。しかし、明るい多色使いのイラス…

The Hinky Pink

『The Hinky-Pink』は、わがままなお姫さまのドレスを短期間で縫い上げるお針子アナベルのお話。これは、どこかで読んだことがあるような童話。ストーリーテリングでは、人気の演目らしい。 眠ろうとすると意地悪な妖精が邪魔をして、アナベルはまったく眠れ…

Spells おまじない

実力派の画家に遊び心が加味されると、とてつもない作品ができ上がる。エミリー・グラヴェットの最新作『Spells』を手にした瞬間、絵本からこちらに魔法をかけられる気がした。 彼女の作品*1,*2,*3では、いつも魅力たっぷりの動物が主人公に抜擢されるのだが…

きりの もりの もりの おく

シルエットの映えるモノトーンの表紙に、色とりどりの文字が浮かんでいます。『きりのもりのもりのおく』――霧に覆われた幻想的な森から、いったい何が現れるのでしょう。 きりの もりの もりの おく、 そこに いるのは いったい だれ? 半透明のオパーク紙に…

Cinderella シンデレラ現代版

『Cinderella (As If You Didn't Already Know the Story)』のレビュー。シリーズ2冊目『Thumbelina: Tiny Runaway Bride』*1のベースとなった1冊目は、さらりと読める現代版おとぎ話。父親の再婚により他人と家族になる構図が、今風に面白おかしく描かれる。…

Thumbelina: Tiny Runaway Bride おやゆびひめの横顔

『Thumbelina: Tiny Runaway Bride』は娘用と思ったのですが、自分のほうが夢中になっていました。まず本の表紙をご覧になってください。瑞々しい若草色を背景に、鮮やかな青緑色のシルエットと、白い手描きの文字が洒落ていると思いませんか。わたしの場合…

The Apple-pip Princess りんごのたねをまいたおひめさま

ジェーン・レイの『The Apple-Pip Princess』、すてきでした。純粋で清らかな心が感じられる極上のおとぎ話です。 美しく豊かに栄えていた王国は、女王さまの死によって、悲しみに打ちひしがれた国となります。そんな中、年老いた王は世継ぎを決めようと3人…

Previously こんなことがありましたとさ!

発売以来ずっと読みたいと思っていた『Previously』を手にしました。英国の絵本、おとぎ話満載とくれば、食指が動かないはずがありません。 すでに知っているおとぎ話の主人公たちが、そのお話が起こる前に一体何をしていたのか――。これを副詞"Previously"を…

Good Enough to Eat 貧しい娘の物語

『Good Enough to Eat』は、貧しい娘のサクセスストーリーを描くおとぎ話絵本。町でのけ者にされていた娘が、ある日、怪物退治を任されて知恵を絞る。 作品自体、韻を踏んだ歌がおもしろいのだが、彼女の生きざまは目にするだけで現実を突きつけられる感じ。…

Extra! Extra! Fairy-Tale News from Hidden Forest 娘のクリスマス・プレゼント候補その一

『Extra! Extra!』を手に取り、娘のクリスマス・プレゼント第一候補にしました。新聞記事の形態でおとぎ話に出てくる主人公たちの暮らしや事件を伝えるユニークな絵本です。ピーター・ラビットや3匹のくま、小さな赤いめんどりを始めとするおなじみのキャラ…

Little Red Riding Hood クリスマスにぴったりの赤頭巾ちゃん

中表紙には、色づいた晩秋の森に雪がちらほら舞い始める風景。村はずれの小屋で暮らすお母さんと赤頭巾ちゃんの姿が収穫の秋を終え冬支度に入る時節にこれほどぴたりとくるとは、目にしてみるまで実感できなかった。体調の思わしくないおばあちゃんのために…

The Princess and the Pea アフリカを舞台にした えんどう豆の上のおひめさま

『The Princess and the Pea』は、アンデルセン作「えんどう豆の上のおひめさま」の舞台をアフリカに移したお話です。作者のイザドラはアフリカに何度か住んだことがあり、このおとぎ話のアフリカ版が作れないかとずっと案を練っていたそうです。 王子の出会…

The Three Swingin' Pigs ジャジーな3ぴきのこぶた

『The Three Swingin' Pigs』は、いかにも米国らしくジャズ音楽を背景にした3匹のこぶた物語です。サックスのサッチ、ベースのモー、そしてボーカルのエラ、3匹トリオが繰り出すスウィングジャズは、一世を風靡していました。そこにやってきたのが、嫌われ者…

The Scallywags おおかみ一家のものがたり

おとぎ話の悪役おおかみは、不朽のキャラクターとして存在します。『The Scallywags』は、そんなおおかみの個性をもとにマナーについておもしろおかしく描く絵本です。ときに野蛮な海賊を示す言葉でもある"scallywags"(=やくざ者)というタイトルからして…

The Flying Bed イタリア・フローレンスを舞台に空とぶベッドが描く現代の寓話

フローレンス中に知れる売れっ子パン屋だった父親と対照的に、二代目息子のグイードは材料を使い惜しみするためにろくなパンが焼けず極貧状態でパン屋を経営していた。家中の物を売りながら生活費をまかなっていたので、ある日からっぽの部屋を見た妻マリア…

Beauty and the Beast アンジェラ・バレット画による「美女と野獣」の絵本

『Beauty and the Beast』は、虚栄と偏見が花を咲かせた19世紀ヨーロッパを背景に「美女と野獣」を描く絵本である。言うまでもなく、イラストが絶品で美しい。 事業の失敗が重なり、かつて富をもてあそんだフォーチューン家は田舎の寂れた小屋で厳しい生活を…

The End おしまいから始まる愉快なおとぎ話絵本

読みながら久しぶりに歓声を上げて笑った絵本が『The End』(邦訳『めでたしめでたしからはじまる絵本』)です。なにしろお話が、ふつうなら「めでたし、めでたし!」で終わる場面から始まるのですから。それは、こんな感じです。 まず、表紙裏見返しに、お…

J. A. Teddy テディをすくえ!

ヤンチャ船長は、遊びのガキ大将。今日も元気に冒険を繰り広げる。でもね、いつもそばにいてくれた大切なぬいぐるみJAテディがいなくなっちゃった。肩を落とす船長をなぐさめようと、妖精や小人、小おにたちがやってきた。JAテディは、世界中の迷子のテ…